Rナギの数学日記

ゆまるの数学日記

元通信制高校生の数学ノート

フェルマーの二平方定理の一文証明の解説

とても美しい定理です.

定理(Fermatの二平方定理).  p を奇素数としたとき, p 2つの平方数の和で表せることの必要十分条件は, p 4で割った余りが 1になること*1である.

この定理に対して,20世紀後半にすんばらしい証明がZagierによって与えられました(いわゆるZagierの一文証明).


証明(Zagier)
有限集合  S:= \{(x, y, z) \in \mathbb{N}^3 : x^2 + 4yz = p\}( p p \equiv 1 \pmod 4 を満たす奇素数) 上の対合(involution):

 \displaystyle \begin{eqnarray}
\left( x, y, z \right) \rightarrow \left\{
\begin{array}{ll}
\left( x + 2z, z, y - x- z \right) \quad {\rm if} \ x < y - z \\
\left( 2y - x, y, x - y + z \right) \quad {\rm if} \ y - z < x < 2y \\
\left( x - 2y, x - y + z, y \right) \quad {\rm if} \ x > 2y \\
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}

は一つの固定点(fixed point)を持つため, |S|は奇数であり,対合  (x, y, z) \rightarrow (x, z, y) も固定点を持つ.□


用語の解説をしましょう.

  • 対合(involution)とは,2回施すと元に戻る写像(関数)のことです. f(x) = 1 - x などがその例に当たります( f(f(x)) = f^2(x) = x).また,ヒトの集合を  H *2とするとき, H 上で定義された「既婚者ならば配偶者を,未婚者ならそのヒト自身を返す」写像も対合になります.
  • 固定点(fixed point,不動点)とは,写像によって自分自身が返される点のことです. f(x) = 1 - x の例では  1 - x = x よ満たす値,すなわち  x = 1/2 が固定点になり,ヒトの例では未婚者が固定点になります.
  •  |S| は,有限集合  S の要素数を表します.高校数学的に書くと  n(S) です.


さて,この証明は一文で完結しており,見た目は非常に綺麗ですが,証明の詳細(行間)を汲み取るにはある程度の訓練が必要だと思います.この記事は,この一文証明をexpandして,複数のSTEPに分け解説し,証明の理解を促すものです.

証明の解説

STEP 1. 関数  \alpha:

 \displaystyle \begin{eqnarray}
\alpha : \left( x, y, z \right) \rightarrow \left\{
\begin{array}{ll}
\left( x + 2z, z, y - x- z \right) \quad {\rm if} \ x < y - z \\
\left( 2y - x, y, x - y + z \right) \quad {\rm if} \ y - z < x < 2y \\
\left( x - 2y, x - y + z, y \right) \quad {\rm if} \ x > 2y \\
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}

が対合であることを確認する.

ここで, \alpha の定義域に  x = y - z x = 2y の場合が含まれていないことが気になった人がいるかもしれない. \alpha S上で定義された関数であったから,上記の条件を満たす  S の要素
存在しないことを確認しよう.
 x = y - z のとき, (y - z)^2 + 4yz = p \Leftrightarrow (y + z)^2 = p であるから,これを満たす自然数  (y, z) は存在しない.
 x = 2y のとき, (2y)^2 + 4yz = p \Leftrightarrow 4y(y + z) = p であるから,この場合も同じである.

次に,

 S_1 = \{ (x, y, z) \in S : x < y - z \},\\ 
S_2 = \{ (x, y, z) \in S : y - z < x < 2y \}, \\ 
S_3 = \{ (x, y, z) \in S : x > 2y \}
とおく.
 S_3 = \alpha (S_1), \, S_2 = \alpha (S_2), \, S_1 = \alpha (S_3)
であることが簡単に確認できるので,確かに  \alpha は対合である.

STEP 2.  \alpha が固定点を持つことを確認する.

STEP 1の最後より, \alpha が固定点を持つならばそれは  S_2 の要素である.このとき,

 \displaystyle \begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{ll}
2y - x = x \\
x - y + z = z \\
\end{array}
\right. \Leftrightarrow x = y
\end{eqnarray}

であるから, S の定義より  x^2 + 4xz = p \Leftrightarrow x(x + 4z) = p であり, p素数であることから, (x, y, z) = (1, 1, \frac{p - 1}{4}) が唯一の固定点となる( p \equiv 1 \pmod 4 より  \frac{p-1}{4} \in \mathbb{N} であることに注意する).

STEP 3.  |S| が奇数であることを確認する.

 a \in SSTEP 2 で求めた固定点でないものとしたとき, b = \alpha (a) (\neq a) a の相方と呼ぶ. \alpha は対合であったから, b の相方は  a であり  a b はコンビとみなすことができる.固定点以外の  S の要素はあるコンビに属しており,固定点は相方を持たないため, |S|は奇数である.

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STEP 4. 対合  \beta : (x, y, z) \rightarrow (x, z, y) が固定点を持つこと, p が二つの平方数の和で表されることを確認する.

 |S| が奇数であるから, \beta による  S のコンビ分けが如何なるものであっても,ぼっちとなる要素が一つは存在する*3.これが固定点となる.これを  (x_0, y_0, y_0) とすれば  S の定義より

 x_0^2 + 4y_0 y_0 = x_0^2 + (2y_0)^2 = p
を満たすので, p は二つの平方数の和で表される.□

STEP 5. 必要十分(???)であることを確認する.

こんな記事を書いてて申し訳ないのですが,Zagierによる証明が「 p \equiv 1 \pmod 4  \Rightarrow  p が二つの平方数の和で表される」と「 p \equiv 1 \pmod 4  \Leftrightarrow  p が二つの平方数の和で表される」のどちらを意味するのかはっきり分かっていません.Zagierの論文を見た限り前者のような気がしますが*4....判明次第更新します.ちなみに「 p \equiv 1 \pmod 4  \Leftarrow  p が二つの平方数の和で表される」の証明は簡単です.

*1: p \equiv 1 \pmod 4 と表します.

*2:ここで,一夫多妻,一妻多夫は認めない.

*3:学校のクラス内で二人組を作るとき,クラスの人数が奇数なら必ずぼっちとなる人間が存在することと同じである.このとき,ぼっちとなる人間が一人しかいない訳ではないことに注意する.

*4:この証明から逆が言えるのかも考えましたが,自分が考えた範囲では言えないのではないかという結論に至りました.