フェルマーの二平方定理の一文証明の解説
とても美しい定理です.
この定理に対して,20世紀後半にすんばらしい証明がZagierによって与えられました(いわゆるZagierの一文証明).
証明(Zagier)
有限集合 ( は を満たす奇素数) 上の対合(involution):
は一つの固定点(fixed point)を持つため,は奇数であり,対合 も固定点を持つ.□
用語の解説をしましょう.
- 対合(involution)とは,2回施すと元に戻る写像(関数)のことです. などがその例に当たります().また,ヒトの集合を *2とするとき, 上で定義された「既婚者ならば配偶者を,未婚者ならそのヒト自身を返す」写像も対合になります.
- 固定点(fixed point,不動点)とは,写像によって自分自身が返される点のことです. の例では よ満たす値,すなわち が固定点になり,ヒトの例では未婚者が固定点になります.
- は,有限集合 の要素数を表します.高校数学的に書くと です.
さて,この証明は一文で完結しており,見た目は非常に綺麗ですが,証明の詳細(行間)を汲み取るにはある程度の訓練が必要だと思います.この記事は,この一文証明をexpandして,複数のSTEPに分け解説し,証明の理解を促すものです.
証明の解説
STEP 1. 関数 :
が対合であることを確認する.
ここで, の定義域に と の場合が含まれていないことが気になった人がいるかもしれない. は 上で定義された関数であったから,上記の条件を満たす の要素
存在しないことを確認しよう.
のとき, であるから,これを満たす自然数 は存在しない.
のとき, であるから,この場合も同じである.
次に,
とおく.であることが簡単に確認できるので,確かに は対合である.STEP 2. が固定点を持つことを確認する.
STEP 1の最後より, が固定点を持つならばそれは の要素である.このとき,
であるから, の定義より であり, が素数であることから, が唯一の固定点となる( より であることに注意する).
STEP 3. が奇数であることを確認する.
を STEP 2 で求めた固定点でないものとしたとき, を の相方と呼ぶ. は対合であったから, の相方は であり と はコンビとみなすことができる.固定点以外の の要素はあるコンビに属しており,固定点は相方を持たないため,は奇数である.
STEP 4. 対合 が固定点を持つこと, が二つの平方数の和で表されることを確認する.
が奇数であるから, による のコンビ分けが如何なるものであっても,ぼっちとなる要素が一つは存在する*3.これが固定点となる.これを とすれば の定義より
を満たすので, は二つの平方数の和で表される.□STEP 5. 必要十分(???)であることを確認する.
こんな記事を書いてて申し訳ないのですが,Zagierによる証明が「 が二つの平方数の和で表される」と「 が二つの平方数の和で表される」のどちらを意味するのかはっきり分かっていません.Zagierの論文を見た限り前者のような気がしますが*4....判明次第更新します.ちなみに「 が二つの平方数の和で表される」の証明は簡単です.