君は本当にロピタルの定理を知っているか?
ギヨーム・ド・ロピタル (Guillaume de l'Hôpital) は17世紀後半のフランスの数学者です。
次の定理は、ロピタルが、1696年に出版した自身の微積分の教科書 "Analyse des Infiniment Petits pour l'Intelligence des Lignes Courbes" に載せたものです*1。
定理 (L'Hôpital's rule):
が不定形 、、 のいずれかになるとき、 ならば、 である。このとき は実数または である。
この定理は非常に強力です。不定形の極限の値を、微分という簡単な操作を用いるだけで求めることができるからです。少し例を見ていきましょう。
例題1:
'11 東工大・後期 改
型の不定形です。ロピタルの定理を使わずに解くこともできるので、まずはその方法を紹介します。
従って、
このように解くこともできますが、上のような式変形も慣れていないと難しいです。そこで、ロピタルの定理を使って解いてやりましょう。
従って、 であるから、ロピタルの定理により
ロピタルの定理を使えば、このような問題も機械的な処理で解くことができます。では次の問題はどうでしょうか。
例題2:
頻出問題
従って、ロピタルの定理により
教科書ではこの極限は、単位円と三角形の面積比較をして の不等式を導出してから、挟み撃ちの原理によって求めます。しかし、面積を比較してこの不等式を導出することは循環論法であることがよく知られています。円の面積の公式を厳密に導出するには を使うからです。そこで大学の教科書ではこの循環論法を避けるため、弧の長さの比較によって、 の不等式を導きます(高校の教科書でもこの方法をとればいいと思うのですが)。
しかし、ロピタルの定理を使えばこんな小難しいことを気にせずに の値を求められるように思えます。しかし、よく考えてみると、ロピタルの定理では を使っています。忘れている人もいるかもしれませんが、この微分の公式を導出するには を使います。よって、ロピタルの定理を使って を導くことも循環論法になります。
ロピタルの定理の誤用
また、例題1で次のような解答は正しいでしょうか。
ロピタルの定理により、
一見正しいようにも思えますが、採点者によってはバツにする人もいるかもしれません。ロピタルの定理を再掲しましょう。
定理 (L'Hôpital's rule):
が不定形 、、 のいずれかになるとき、 ならば、 である。このとき は実数または である。
ロピタルの定理は ならば、 という定理です。言い換えれば、 が存在するならば であるということです。
しかし、上の解答はどうでしょう。 とすると、 の存在がまだ保証されていないにも関わらず、 のように2式を等式でつないでいます。これはロピタルの定理が期待する論理構造ではありませんね。
証明について
ロピタルの定理全体の証明は簡単ではありません(少なくとも僕の知る範囲では)。全体と言ったのはロピタルの定理には 、 のように様々なタイプがあるからです。例えば次のようなタイプの証明はかなり難しく、少なくとも高校範囲を逸脱しています*2。
終わりに
ここまでロピタルの定理を紹介してきましたが,実はこの定理を嫌う数学者は少なくありません(僕も少しこちらの立場です).その理由を察するに,数学者は考えることが好きであり,ロピタルの定理は自分から思考を奪う存在だと考えているのではないでしょうか.上の東工大の問題においても,ロピタルの定理を使わず式変形を駆使して作った解答のほうが,ロピタルの定理を使った解答よりも数学的だと(自分は)感じます(ロピタルの定理を使った解答は,少し淡泊に思える).
そうは言っても,ロピタルの定理を使うか使わないかは個人の自由ですし,ロピタルの定理を使った解法のほうがエレガントで素晴らしいと考える人がいることも理解できます.しかし,ロピタルの定理はあくまでも最終手段としてであって,普段からバシバシ使うものではない,というのが僕の考えではあります.